【2008年6月14日(土)】
先日ニューヨークのオークションにかかって日本の宗教法人が落札した運慶仏が公開される、という新聞の記事を見つけた。まだ確実に運慶作と特定されたわけではないので、博物館で今後数年かけて調査を行うという。秋まで公開される予定だが、早速見てきた。
6月第1週に薬師寺展に行った両親は2時間も並んだという。その東京国立博物館の本館入り口のすぐ右手の仏像コーナー内に、その運慶作の大日如来坐像がケースに入って陳列されていた。
坐高は数10cmで、木造で体全体に金箔が施されていてそれがまだ色鮮やかに残っている。少しふっくらとしているが理知的な趣きの尊顔に、玉眼の半眼でじっと虚空を見つめ、引き締まった体躯の前でしっかりと智拳印を結ぶ姿。衣文の襞がダイナミズムで写実感があるのは平安時代後期からの鎌倉彫刻の特徴を表しているようだ。写真で見る円成寺の運慶初期の大日如来坐像に似ているが、それよりも少し大人びた風情を感じる。宝冠がないためか髻がやけに高く存在感を示している。が、それが全体のバランスを邪魔している訳ではなく、実に均整のとれた像だ。
仏像コーナー入り口手前には親切にパネル展示もされている。まだ運慶作品と断定されている訳ではないので、タイトルは「大日如来坐像」となっている。この写真を撮ろうとしていると、女性が「すみません、ここに立つのでこれで撮ってもらえませんか?」と携帯カメラを手に、大日如来坐像とのツーショットを頼んできた。快諾して撮影する。女性はそのツーショット画面を見ると、「あー、よかった、うれしい!」とはしゃぐように嬉しがっていた。それにしても面白いマニアがいるものだと感心していると「お撮りしましょうか?」と訊かれたので、そのお誘いには丁重にお断りした。
展示パネルの解説には、この坐像には運慶の特徴がいくつもあるということや、X線写真で確認できる像内の納入品の五輪塔や水晶五輪塔にもその特徴があると書かれていた。鑑定作業は学術的には大変なのだろう。運慶と断定されようとされまいと、本来的にはこの坐像の価値が変わるものではないであろう。