【2007年7月14日(土)】
ケネス・ブラナー監督作品の映画「魔笛」を、初日にタカシマヤの12階新宿テアトルタイムズスクエアの16:30分の回で観た。全席指定/入替制で劇場窓口にて日時と座席を指定する必要があるので、一度11時半ごろに窓口に行くと、既に12階の周りレストランではランチ待ちの行列が出来ている。
開演前の16時過ぎも終演後の19時頃も相変わらずの行列だった。台風4号が本州を縦走する予報が出ている最中、連休の消費場所は行楽地から繁華街に変更になったのだろう。
【The Magic Flute】
ほとんど予備知識なしで観た。モーツァルトのオペラ「魔笛」は何度か観ているので、ストーリーも楽曲も分かっている。
演出家による解釈の仕方や演出方法による作品の違いもいくつか知っている。
が、この作品は、これまでの既知の作品とは違う斬新なそして映画ならではの魅力が充満していた。
最初の驚きは、序曲が始まったときの映像だ。カメラワークは燦然と輝く太陽から緑の草原にパーンし、そこは第1次世界大戦時の戦場だ。そして、台詞も歌もドイツ語ではなく、英語だ。
夜の女王は戦車に乗って登場する。アリアでは唇を横からアップにする。いくつかのシーンでCGは使われる。
だが、全編を通してモーツァルトのオペラ楽曲はそのまま進行する。お決まりのバレエもある。パパゲーナがおばあさんから娘に変わるのも、タミーノの試練も、パパゲーノの鳥篭も、夜の女王のアリアも、ザラストロのバスも、オペラと変わりはない。
演出家の創作力は大きいと感じた。
観ている最中に、オペラとか映画とかという領域を超えたものではないかかと感じていた。不思議な感動だ。それは以前観たモーリス・ベジャールの演出によるワグナーのオペラ「ニーベルングの指輪」のバレエと同じ感じだった。
劇場のオペラとの違いは、最後にカーテンコールがないことか。
【ザラストロ】
夜の女王を闇とすると、ザラストロは(昼)太陽となり、二元対立を意識した作品だ。
ザラストロというのは、もともとはゾロアスター教の開祖ザラスシュトラに由来する。ゾロアスターをドイツ語読みするとツァラトストラとなる。ニーチェはゾロアスター教に刺激されて「ツァラトストラかく語りき」で哲学を語り、シュトラウスは交響詩を編み出した。
闇と光、憎と愛、男と女、火と水、戦争と平和、悪と善など二元対立する構図は非常に分かりやすい。その分かりやすさは人間本来の感覚的なところに起因すると松岡正剛の著作にあった。
モーツァルトは人間の奥底に共通する感覚に響く力を持っているのだろう。